『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』

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『前⽥建設、鉄⼗字軍団をマネジメント』編

前田建設ファンタジー営業部

マジンガーZ

Dr.ヘル

鉄十字軍団

前田建設

2018.01.17

⽇頃より、難しい顧客の対応に悩まれている⽅は多いだろう。

前⽥建設でも様々な発注担当者とお仕事をさせていただく中で、非常に厳しいハードルが設定されてしまうことがある。

東京都千代⽥区富⼠⾒にある前⽥建設⼯業株式会社の本社の⽚隅で、眼下に広がる江⼾城外堀の⾵景をおぼろげに捉えつつ、ファンタジー営業部のA部⻑は険しい表情で腕組みをしていた。

彼も様々な難しい発注担当者と仕事をしてきた⼀⼈である。しかし、会社から・・・いや正確には政府から・・・聞かされた今度の発注者は、少しでもミスをすると即刻、本当に彼の⾸が⾶んでしまうことが確実な相⼿であった。

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そもそも、発注担当者の⼀⼈は本当に既に⾸が⾶んでいるし、もう⼀⼈は、本来⼆⼈とカウントしてもよい、複雑な相⼿※1だった。

「彼・・いや彼⼥か?・・とにかく、彼らの給与は、⼀⼈分で良いのだろうか?・・・」

⾃⾝がシビアな状況下にあるにも関わらず、現場所⻑の経験も多いA部⻑はつい、そんなこと※2にも思いを巡らせながら、今回の難しいミッションを考え続けた。

A部⻑が⾸相官邸に呼ばれたのは3⽇前のことである。時の⾸相からの直電に、前⽥建設の社内は騒然となったが、もう15年も前※3になるファンタジー営業部の初受注物件が何だったか、を知っている役職員だけは驚きもしなかった。むしろ彼らは、フジプラントで今、起きている事態を考えれば、前⽥建設へ⾸相から連絡が来るのは時間の問題と考えていた。

官邸内の部屋でA部⻑の顔を⾒た⾸相は、挨拶も早々に本題を切り出した。

「A部⻑、ドクターヘルへの光⼦⼒エネルギー供給にあたり⼯事が必要になった。それに協⼒してほしい。」

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今回ドクターヘルは⼈類に対し共存共栄を打診してきた。昨⽇まで死闘を繰り広げた敵との共存共栄・・・各国の意⾒は紛糾し、合意形成には相応の時間がかかることが明⽩となった。そこで各国意思統⼀まで間、窮余の策としてフジプラントの光⼦⼒エネルギーをドクターヘル側へ供給することが決定されたという。そのための⼯事に協⼒してほしいということだった。

「では、前⽥建設が光⼦⼒プラントの改造⼯事をすれば良い、ということですね。」

A部⻑は答えを先回りしたつもりだったが、⾸相は⾸を横に振った。

「ドクターヘルは⼈類を信頼していない。⼯事において可能な範囲はすべて、彼ら⾃⾝で⾏うと⾔ってきた。しかし我々のプラントとの接続は、我々でなければ⾏えない。そのために彼らは、信頼できる⽇本の建設会社とパートナーシップを組みたいとの要望なのだよ。」

「ここでも『共存共栄』を切り出してきたという訳ですか。」

「その通りなんだ。こんな危険で難しい業務をお願いできるのは、我々の世界を熟知している、前⽥さんしかいないと思いましてね。」

それを聞いたA部⻑は窓の外に⽬をやり、⾸相もその視線を追った。その先にはかつて、マジンガーZの数えきれない激闘を⽀えた、光⼦⼒研究所の特徴的なシルエットが浮かび上がっている。

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富⼠⼭をモチーフとしたと⾔われるその⽩亜の建築物の⾜下には、前⽥建設が担当した※4格納庫が今も静かに眠っている。⼈類の幸せに直結する⼟⽊⼯事、数々の技術的困難も、今となっては光り輝くような思い出だ。もう⼆度と担当できないと思っていた、やりがいある光⼦⼒研究所関連の業務が、前回とは⽐較にならない⼤きなリスクとともに、今やってきた。

・・・やがてA部⻑はまっすぐに⾸相の⽬を⾒て、⼝を開いた。

「やりましょう。こんなに巨⼤で眼前にある社会的課題を、本業で解決できる※5チャンスはまず、ないでしょうからな。」

「そんなチャンスが今後も多いようでは、政府としても困りますよ。」

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⼆⼈がほほ笑んだその瞬間、前⽥建設ファンタジー営業部は、史上最恐の発注担当者と向き合うこととなった。

「部⻑。なにを今さら、そないな難しい顔してるんでっか。」

B主任の声に、A部⻑はようやく我に返った。

「部員全員、中会議室に揃うてます。早う始めましょ。」

ファンタジー営業部は前⽥建設において、マンガ、アニメ、特撮などの世界に存在する構造物の受注を⽬指す専⾨部署である。ほぼ全ての案件が、敵や悪者の妨害や攻撃が予想される中での業務となるため、前⽥建設の社内リスク分析でもこの部署の危険要因欄だけは、例えば『ルストハリケーンの影響による鉄筋・鉄⾻の過剰な発錆』など、他の部署では決して⾒ることがない⽂⾔がびっしり書き込まれている。そんな危険を顧みず、いつも明るく業務に励むB主任は、ファンタジー営業部の貴重なムードメーカーである。会議室に⼊ると、建築技術者であるC主任、そして新⼊社員のD職員が笑顔で部⻑の到着を待っていた。今⽇はドクターヘルとの仕事の進め⽅を決めていく、⼤事な会議なのだ。

「今回のカギは、透明性の確保だ。」

A部⻑はポイントから説明に⼊った。

「ご存知のようにドクターヘルは⼈類を信頼していない。彼の真の⽬的は、我々⼈類のいない別の世界を創ることなのだという意⾒まであるそうだがその真意はともかく・・・そのような発注者の⼯事で信頼を失えば・・・我々も命の保証はないだろう。」

「ということはやはり、今回の発注者はドクターヘルということなんですね。」

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質問したのはいつも冷静なC主任だ。彼が議論を整理し、業務に優先順位をつけることで、ファンタジー営業部は上⼿く回ることが多い。

「その通りだ。しかし⽇本政府も⼀つ条件をつけたのだ。これは我々の安全のためでもあり、世界各国政府のためでもあり、何よりフジプラントの光⼦⼒関連技術の流出を完全阻⽌するためだ。今回の⼯事は『公共⼯事の品質確保の促進に関する法律の⼀部を改正する法律』、いわゆる改正品確法の遵守を発注の条件にする、と。」

「国交省の動きも、さすがに早いですね。」

「この法律要綱にある基本理念はこうだ。『発注者の能⼒及び体制を考慮しつつ、⼯事の性格、地域の実情等に応じて多様な⼊札及び契約の⽅法の中から適切な⽅法が選択されること』と。」※6

この会話を聞いていたD職員が、わかったぞという顔で会話に⼊ってきた。

「なるほど。⼈類との共存共栄を、逆に盾に取ったという訳ですね。⻁⽳に⼊らずんば⻁⼦を得ず的な。そういえば、⻁さんと⾔えばゴーゴン⼤公は・・・」

それをB主任が修正する。

「ちゃうやろ。郷に⼊っては郷に従えや。」

命の保証がない業務にも関わらず、彼らの議論はいつもこのように脱線から始まっていくのだ。
C主任が話を引き戻す。

「まずは、発注者の能⼒と体制についてですね。」

A部⻑はこの質問に間髪⼊れず答えて⾒せた。

「今回は、CM ⽅式でいこうと思う。」

「CM⽅式?・・・CM 編成であれば、JR九州の特急「ハウステンボス」や「有明」に充当されている、783 系のことだとは知ってるのですが。」

本来、知っていなければならないことを下⼿に※7ごまかしたD職員である。彼はファンタジー営業部に新⼊社員の時から配属され、未だにピュアで天然なところがあるため、他の部員からは永遠の新⼊社員と呼ばれている。

「Construction Management ⽅式のこっちゃ。発注者の補助者・代⾏者としてのコンストラクションマネージャー(CMr)が、技術的な中⽴性を保ちつつ、発注者側に⽴って、設計・発注・施⼯などマネジメント業務を⾏うんや。」

B主任がすかさず答える。彼は今回ファンタジー営業部に復帰するまで、東北⽀店の⼤槌復興CMr作業所※8で、まさしくこの業務を⾏ってきたばかりだったのだ。

「CM⽅式は、発注者の体制やら、能⼒の質的・量的な補完やらを図ることが⽬的なんや。発注者の代⾏者として、設計の検討、⼯事発注⽅式の検討、⼯程管理、品質管理、法令遵守など、あらゆるマネジメント業務の全部または⼀部をCMrが⾏うっちゅうこっちゃな。で、⼤槌では、そのCMrがウチってわけや。」

D職員は、まだ混乱している。

「難しいですね。今回のプロジェクトでは・・・どうなるのですか。」

「それは私から説明しよう。」

A部⻑がホワイトボードの前に⽴った。

「発注者はドクターヘルになる。しかしフジプラントの光⼦⼒関連技術は新光⼦⼒研究所でしかわからない。そこで発注者⽀援の特別CMrとして新光⼦⼒研究所がここに⼊る。」

A部⻑が図を描き始めた。C主任は感慨深そうにつぶやく。

「ドクターヘルと新光⼦⼒研究所が仲良く⼿を取り発注者ですか・・・歴史的ですね。」

「前⽥建設は光⼦⼒供給CMrとして、設計、発注、施⼯のマネジメント業務に携わる。図で⽰せば、ここだな。」

A部⻑が完成させた図は、このようなものだった。

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図の⼀番下を⾒てD職員が声を上げる。

「調査・設計業務は鉄⼗字軍団、施⼯業務は鉄仮⾯軍団が担当するって・・・なるほど、我々以外にこの⼈たち、そして今回の業務リスクをコントロールしうる建設会社、世界に無いでしょうねぇ。」

待ってましたとばかりにB主任が説明を始める。

「これはドクターヘル側の要望なんやて。建設費⽤を少しでも抑えるため、彼ら⾃⾝でこれらの業務を⾏いたいそうや。」

「え、ドクターヘルが出すんですか、今回のプロジェクト費⽤?」

D職員の質問に、C主任も意⾒を重ねる。

「費⽤低減でなく、これは⽇本の光⼦⼒技術や建設技術の習得が、彼らの主⽬的と考えるべきでしょう?」

「それが⽬的かも知らんけどな、とにかく費⽤はドクターヘルと世界各国の分担や。『共存共栄』やからね。技術流出のリスクは政府でも喧々諤々の議論やったそうや。そやからこそ、特別CMrに新光⼦⼒研究所、光⼦⼒供給CMrに前⽥という、今回のスキームになったっちゅう訳や。」

A部⻑が補⾜する。

「今回、ドクターヘルも⽇本政府もこのプロジェクトには⺠間資⾦、プロジェクトファイナンスの活⽤を検討するそうだから、上⼿くいったら驚き※9だね・・・ということでドクターヘルは、⾃らの『配下』を我々にマネジメントしてほしい、との申し出だ。」

そう⾔って部⻑はプロジェクターのスイッチを⼊れ、『配下』達の姿を映し出した。

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「うーん・・・ブロッケン伯爵は現場でヘルメット、頭と体と⼆つ被ってもらった⽅がいいんですかね?」

D職員のコメントに、B主任も被せていく。

「それ⾔うたら、あしゅら男爵もホンマは⼆つ、被ってもらわないといかんのやないか?」

「いや、それは⾕沢製作所さんにお願いし、左右別デザインのメットを作ってもらえば⼀つで済む話でしょう。」

それを聞いていたC主任までが調⼦を合わせる。
ファンタジー営業部員はこれまでもこんな調⼦で、どんな難題でも明るく前向きにクリアし続けてきたのだ。どんなに新しい構造物であろうと、それが前例のないマジンガーZの格納庫であろうと、建設プロジェクト毎に異なる複数の⼒を結集し、期⽇までに指定通りの品質で竣⼯させなければならないのが彼らなのだ。そしてそれは、決して試作品ではいけないのだ。
A部⻑がまとめに⼊る。

「以上、我々はCMrとして、ドクターヘルにも世界各国の政府にも透明性ある⽅法の下でマネジメント業務を⾏わなければならない。我々に不正があれば、⽇本政府が世界中から糾弾されるし・・・。」

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「・・・ドクターヘルは遠慮なく、⽂字通り我々の⾸を刎ねる、っちゅうこっちゃ。」

「我々もブロッケン状態ですね。」

「前⽥建設から鉄⼗字軍団への転職は堪忍やな。」

その後、A部⻑は淡々とプロジェクターの画⾯を進めた。すると、ある写真を⾒たC主任が質問をする。

「これ何ですか、部⻑。」

「建機だ。ドクターヘルによると最先端のAIを搭載しているそうだ。」

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「IoT にもきっと対応しているのでしょうね。」

「両者とも腕が⻑い。そこに凄い建設のノウハウがあるのではないか?」

「最先端のi-construction 事例になるやろね、今回。」

「私はこのジャイアンF3に塗装された警戒⾊を⾒て、ドクターヘルも本気だと思ったね。」

「いや部⻑・・・これ、そういうことやない、思いますよ。」

B主任がすぐさま突っ込むが、D職員は⾯⽩がっている。

「胴体も鉄道レールの断⾯みたいですし、建設も得意な機械獣なんでしょうね。」

「あとは彼らの騒⾳、振動やCO2排出量などが注⽬だがね。このように多様な関係者によって本プロジェクトは進められる。だからこそ互いが納得しながら仕事ができるよう、CMrである当社の役割が重要になってくる。」

A部⻑のまとめをうけ、C主任は重要な課題を切り出した。

「そして我々には、解決すべき重要な課題が残っています。⽇本政府が要求する、品確法の基本理念にもある『適切な⼊札および契約⽅法』を何にするかです。」

⼤槌のCMrを経験しているB主任には、A部⻑がその答えとして何を⾔うのかすぐに解った。A部⻑は皆の顔をぐるっと⾒回した後、B主任の期待通りの答えを⼝にした。

「そこで前⽥建設としては『原価開⽰⽅式』を採⽤し、この難局を乗り切ることとする。」

A部⻑は伝家の宝⼑を抜いた。
果たして『原価開⽰⽅式』とは何なのか。『原価開⽰⽅式』により⽇本政府は世界各国から信頼を獲得できるのか。そして『原価開⽰⽅式』はドクターヘルの魔の⼿から、前⽥建設ファンタジー営業部員の命を、守ることができるのか。